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【コラム】:近時話題の【デジタルフォレンジック】とは? どんな場面で使える?

【コラム】:近時話題の【デジタルフォレンジック】とは?どんな場面で使える?

1 デジタルフォレンジックとは?
近時第三者委員会の調査でも話題のデジタルフォレンジックとは、「インシデントレスポンスや法的紛争・訴訟に際し、電磁的記録の証拠保全及び調査・分析を行うとともに、電磁的記録の改ざん・毀損等についての分析・情報収集等を行う一連の科学的調査手法・技術」(注1)などと定義されます。
 
 デジタルフォレンジックについては、10年ほど前からコラム寄稿やセミナーを行っていますが、近時益々デジタルフォレンジックの利用事例や応用可能性が広がっています。
 デジタルフォレンジックで何ができるか、どのような場面で役立つかについては具体的な利用類型で説明した方がわかりやすいと思いますので、いくつか具体的な利用類型を説明します。

2 デジタルフォレンジックはどのような場面で使えるか?

①企業不祥事、会社内不正(背任、横領など)の調査
 話題となっている第三者委員会の調査なども同じ類型といえますが、企業不祥事、会社内不正(背任、横領など)が発生した場合には、具体的な行為の特定やそれに対する対応のために調査を行う必要があります。
 ところが、やはり不正行為に関連するメールやメッセージなどのデジタル証拠は、不正の発覚を恐れる行為者により削除されることが通常です。
 このような場合に、デジタルフォレンジックを利用することで、削除されたメールやメッセージ、或いは関連ファイルなどを復元し調査することで、不正の有無、具体的な行為態様などを把握することが可能となります。

役員や従業員による機密データの不正持ち出しの痕跡の復元・特定という調査なども検討可能です。

 ②紛争・訴訟問題における証拠の収集・提出
デジタルフォレンジックの利用場面は企業不正問題に限ったものではありません。
 訴訟に至る場合も含めて、法的な紛争として顕在化する問題においては、各当事者の主張に食い違いがある場合がほとんどだと考えられます。
 たとえば、ある物を売買するという約束をしたとしましょう。

 わかりやすくごく単純な事例を設定すると、

 買主:あのとき10万円で売るといったから買うと合意した
 売主:あのとき100万円で買うといったから売ると合意した

 と双方の主張が食い違う紛争があるとします。
 10万円か100万円かは大きな違いです。
 このときにその場面の一部始終をカメラで撮影していれば、そもそも合意した価格について主張が食い違うといった紛争とはならないでしょう。
 曖昧な部分、「言った言わない」の部分があり、それを確認する手段がないから双方が自己に有利な主張をそれぞれ行うことになり、それが紛争となるのです。
 このような場面で、メールでは売買額について記載をしたと思うが、そのメールはもう消去してしまっているといった場合、デジタルフォレンジックによってメールを復元し証拠として提出することができれば、証拠価値の高い証拠の提出が可能となり、紛争の解決へと大きく前進することとなります。

 上記はわかりやすくするために売買契約の事例で説明をしましたが、ありとあらゆる紛争において客観的な『証拠』は極めて重要な役割を果たすところ、そのような証拠提出の可能性の1つとしてデジタルフォレンジックの利用が検討されます。

 ③セクハラ・パワハラなどハラスメント問題
 セクハラ・パワハラなどハラスメントの被害者の方々はしばしば気持ちの問題からやむを得ないことではありますが、本来はハラスメントの証拠となるようなメールやメッセージを消去してしまうという傾向があります。
 その後問題が大きくなった際に、ではどの時点からどのようなハラスメントがあったのかということが、口頭での説明のみとなるとなかなかその事実の有無や具体的な態様等について判断することができません。
 そのような際に、デジタルフォレンジックを利用して、削除したメールやメッセージを復元することができれば、問題の適切な解決に資することとなります。

 ④未払残業代請求問題
労働問題の一つとして未払残業代の請求問題がありますが、従業員の立場からは残業していたことの立証、企業の立場からも実際の業務の確認という観点でデジタルフォレンジックの利用が検討され得ます。
残業を当該従業員が単独で行っていたような場合には、実際にいかなる業務・作業を何時から何時まで行っていたかを客観的に立証・確認する手段がない場合があります(その意味で、「やったやらない」の水掛け論とも言える状態)。タイムカードがあったとしても、それは出退社時間が確認可能であるだけで、作業内容の確認まではできないのが通常であるところでしょう。

このような場合に、当該従業員が使用していた会社所有のパソコンをデジタルフォレンジックにより調査することで真相を究明できる可能性があります。
パソコンのオンオフの履歴、WEBサイトの閲覧履歴などについて、デジタルフォレンジック調査ではそれらを確認、或いは削除されたWEBサイト閲覧履歴復元することも可能です。
従業員の立場からは残業を行っていたことの証明、企業の立場からはそれに関する適切な確認の一助となります。
事例としては、従業員が残業を行っていたとする時間帯に、業務とは無関係なWEBサイト(ゲームサイトなど)の閲覧履歴を復元することで、適切でない未払残業代請求について合理的な対応を行うことができたというものもあります。

 ⑤デジタル遺産問題
 デジタル遺産は故人が保有していたオンライン・オフラインのデジタルデータのことを言いますが(注2)、財産的価値の高いデジタル遺産としては、暗号資産、NFT、収益化されたSNSや動画サイトのアカウントなどがあります。
 
 デジタル遺産は、従来型の相続財産、例えば、銀行預金や不動産などに比して、被相続人の方がこれを保有していたか否かがわからないといった場合も少なくありません。
 このような場合、デジタル遺産に関する情報が集約されているのは、被相続人の所有していたパソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスとなりますが、これらにはパスワードロックがかかっていることも往々にしてあるところです。
 このときにデジタル遺産の保有の有無の調査を行いたい場合、パスワードロックの解除やパスワードを迂回する方法での内部データの調査をデジタルフォレンジックで行うことで、デジタル遺産についても遺産分割協議など適切な対応を行う基礎を形成することができる可能性があります。

近時注目されることとなっているデジタルフォレンジックですが、上記のように様々な場面において紛争などの各問題を解決するための一助となることが期待され、今後も重要性を増していくものと考えられます。

注1 特定非営利活動法人デジタルフォレンジック研究会WEBサイトhttps://digitalforensic.jp/home/what-df/

注2 デジタル遺産の定義、各種問題についてはこちらの記事もどうぞ。
第9回 デジタル遺産の法的問題

デジタル遺産の法律問題 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第9回

第12回「デジタル遺産」となり得るNFT

「デジタル遺産」となり得るNFT『企業法務弁護士による最先端法律事情』第12回

第13回
「デジタル遺産」に気づかず遺産分割協議をしたら?

「デジタル遺産」に気づかず遺産分割協議をしたら?『企業法務弁護士による最先端法律事情』第13回

第14回
メタバース内の不動産も 「デジタル遺産」になる?

メタバース内の不動産も「デジタル遺産」になる? 『企業法務弁護士による最先端法律事情』第14回

関連書籍:
『デジタル遺産の法律実務Q&A』
(拙著、2020年刊、日本加除出版)
https://www.kajo.co.jp/c/book/05/0501/40805000001?srsltid=AfmBOorcTBSDsp48DTR2u5fvK9_KMH5ZzwoHczkFBMORzELQALRKgrvi

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