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【コラム】:「デジタル遺産」となり得るNFT② 近時の動向アップデート

【コラム】:「デジタル遺産」となり得るNFT② 近時の動向アップデート

1 NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)とは?
近時、ブロックチェーンを利用したNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)なるデジタルデータが世に出回るようになりました。ブロックチェーンは暗号資産においても利用されている技術になりますが、NFTは暗号資産とは異なる特徴を持っています。
一般的にデジタルデータは容易に完全なコピーの作成が可能であり固有性とは対照的な存在であることが通常ですが、これに対し、NFTは他のデータと識別可能な・固有性をもったデジタルデータである点でそれら一般的なデジタルデータとは異なるものといえます。他にプログラマビリティ(注1)がある点などがNFTの特徴と言われています。
取引対象性(NFT購入の動機などを含め)の前提として、該当NFTの保有証明(もっとも後述のとおり権利関係については検討課題もありますが)が可能な点も特徴といえます。

具体的なNFTの利用事例として、デジタルアート、トレーディングカード、ゲームアイテムなどがあります(近時の利用動向は2にて紹介)。
ブームとなっていた時代のNFTの取引額についてみれば、著名SNS共同創業者の初投稿が約3億円で落札された事例や、老舗オークションハウスが取り扱ったアート作品が約26億円で落札される事例などがあり、非常に大きな財産的価値があるものも発生していました。
メタバース内での不動産(無論、仮想現実空間での一区画といった意義にはなりますが)の一区画について240万ドル相当の暗号資産での取引が成立したこともあります。

2 NFTの現状

2021年~2022年4月ころまでは、上に述べたようなNFTアート等の高額な取引が活発に行われていましたが、2022年5月になると一挙に取引価格が下がり、いわゆる暴落と言って良いほどの状況となりました。
 これを受けて現在はそれら価格の暴落を報じるインターネット記事などから「NFTバブル弾ける」、「NFTは終わった」といったイメージが浸透しているかもしれません。
 確かにNFTアート等のブーム時に高騰したNFTのバブル状態については終了したといえるのかもしれませんが、NFT自体の利用可能性や価値が消滅したわけではないといえるでしょう。日本においても、NFTを取引するNFTマーケットプレイス(注2)は増加しました。
近時の動向としては、利活用方法が変わってきた(或いは増えた)という方が実態に即しているものと考えています。
例えば、イベント・講演のチケットのNFTでの発行や、2025年の大阪・関西万博においても大阪・関西万博入場チケット引換券NFT(注3)や特典NFTの発行などNFTの利活用がなされるようです。
その他、宿泊施設のメンバーシップ権をNFTで発行する事例もあります。当該NFTはNFTマーケットで売買することもできると案内されています(注4)。
また、RWA(Real World Asset)といって、不動産、株式、社債、国債、コレクターズアイテムなどの現実世界の資産をトークン化(各資産に紐づけたNFT又はFT(注5)を取引対象とする)する動きも出てきています。資産を小口化することによる投資単位の引き下げやNFT化すること自体による流動性の向上などが狙いとなっているところでしょう。
もっとも、RWAについては、各資産に紐づけられたNFTの取引によりいかなる権利の移転がなされるのか、仮に実体的権利の移転を伴うとしても対抗要件の問題があるのではないかなどの法的問題は残ります。
取引場所となるNFTマーケットプレイスの規約におけるNFT売買による実体資産に関する権利関係の帰趨について条項による手当を行うことで一定の解決を図ることなども検討されますが、特に紐付けの対象が不動産である場合などにおいて、現状の日本法からは実質的な取引の完結にはNFT取引外での手当(登記など)はいずれにせよ必要となり、これらの点はRWAの浸透に際し検討課題となると考えられます。

NFTについては、上述のとおり利活用方法の変化や増加も進んでおり、取引額の大きな変動、法的問題点の検討状況など今後もその動向については注視する必要がありますが、いずれにせよ既に取引や利用があることは事実であり、NFTついても個人がこれを保有することとなれば、相続の場面においては、「デジタル遺産」(注6)としての検討対象となります。

3 NFTに関する法的な検討課題
 相続の場面に限った話ではありませんが、NFTには検討すべき法的課題も存在します。
たとえば、デジタルアートのNFTについては、デジタルデータについて民法上の所有権は観念できないと解されるのが一般的であることから(注7)、NFTを売買するといっても、デジタルデータであるNFT又はNFTに紐づいたデジタルアートの所有権を売買しているとは考えられないことになります。 
また、NFTアートの保有者は、当該NFTに紐づいたデジタルアートの著作権について、別途著作権者との間で著作権譲渡等の契約を締結しない限り、原則としてそれら権利を保有していないこととなります。この点ついては、NFTマーケットプレイスの利用規約において著作権に関する手当条項があり、当該利用規約に著作者及び購入者の双方が同意して契約関係に入っている場合などには一定の手当がなされることになるでしょうが、異なるNFTマーケットプレイス間における売買の場合などにはその権利関係が不明となる可能性もあると考えられます。
NFTアートの購入者に所有権も著作権も帰属しない場合、NFTアートの売買では何か売買されているのかというところですが、NFTアートへのアクセスやそれを公開する権利等というところでしょうか。いずれにせよ上記のような意味でNFT取引に関連する権利の不透明はあると考えられます。

4 相続との関係
 3で検討したような法的な検討課題はあるにせよ、NFTは現在既に取引対象として財産的価値を有するに至っているものとして、相続の場面においてもこれを無視することはできないものといえるでしょう。
相続人の立場としては、そのような多額の財産的価値を有し得るNFTの存在を認識し、被相続人においてそれを保有していたか否かを確認することが重要であるといえます。
一般的にNFTの売買は、NFTマーケットプレイスと呼ばれる市場で行われることが多いといえます。また、決済については暗号資産による決済が中心となっています。
このような取引の特徴からは、NFTマーケットプレイスの登録関連のやり取り、決済用の暗号資産の取引やNFTマーケットプレイスと連携可能な暗号資産ウォレット(ウォレットは主にスマートフォンやPCなどのアプリとして発見され得ます)の存在などが、被相続人がNFTを保有していたか否かの発見の端緒となります。

(※注1)ここでいうプログラマビリティとは、NFTに様々な付加機能を持たせることが可能であることを指しますが、このような付加機能の一例として、(欧州等における著作者の追求権のように)デジタルアートのNFTが転々流通された際の著作者(デジタルアートであれば作成者・画家など)への各転売代金の一部の還元などが挙げられています。

(※注2)大手暗号資産交換業者の手掛ける「Coincheck NFT」、EC大手企業による「楽天NFT」、その他「LINE NFT」など、以前に比べて日本国内においてもNFTマーケットプレイスは増加しています。

(※注3)EXPO 2025 デジタルウォレットWEBサイト:「大阪・関西万博入場チケット引換券NFTとはなんですか?」など。
https://faq.expo2025-wallet.com/hc/ja/articles/32139940174489-%E5%A4%A7%E9%98%AA-%E9%96%A2%E8%A5%BF%E4%B8%87%E5%8D%9A%E5%85%A5%E5%A0%B4%E3%83%81%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88%E5%BC%95%E6%8F%9B%E5%88%B8NFT%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%99%E3%81%8B
(※注4)「NOT A HOTEL MEMBERSHIP NFT」WEBサイト参照。
(https://notahotel.com/nft)

(※注5)ファンジブルトークン(代替性トークン)のこと。暗号資産などがそれにあたります。

(※注6)「デジタル遺産」について現状は法律上の定義はありませんが、法的に新たな範囲での検討を行う文脈においては、故人のデジタル機器に保存されたデジタルデータ及びオンライン上の各種アカウントやそれに紐付けられたデジタルデータがこれに含まれ、それら残された故人のデジタルデータのことをいうべきものと考えます。

(※注7)民法上の所有権の客体となる「物」についてこれを空間の一部を占める有形的存在である有体物と解する考え方を採れば、デジタルデータは無体物であることから、これについて「物」を客体とした民法上の所有権が観念できないと解されます。
この点については、暗号資産に関して所有権を基礎とする破産法62条の取戻権に基づきその引渡しを求めたという裁判例(平成27年8月5日東京地裁判決)においては、「所有権は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利であるところ(民法206 条)、その客体である所有『物』は、民法85 条において『有体物』であると定義されている。有体物とは、液体、気体及び固体といった空間の一部を占めるものを意味し、債権や著作権などの権利や自然力(電気、熱、光)のような無体物に対する概念であるから、民法は原則として、所有権を含む物権の客体(対象)を有体物に限定しているものである」として、デジタルデータである暗号資産についての所有権を基礎とする破産法62条の取戻請求の可否の判断の中で、所有権等の客体として有体物性を要するとする見方が明らかにされています。

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